〇学校・屋上(昼休み)
芽衣のお弁当に入っている卵焼きを羨ましそうに見ている友樹。
友樹「ハリちゃんの卵焼きおいしそうやな」
芽衣「ど、どうぞ」
友樹「いいの?いっただきまー…って、おいっ!」
卵焼きを貰って食べようとした瞬間、隣にいた怜王がその卵焼きをパクッと食べた。
怜王「ん、うまい」
自分で作った卵焼きを褒めてもらえて芽衣は嬉しそう。
怜王「オレンジとイチゴどっちが好き?」
芽衣「えっと、オレンジ?」
何のことかわからないまま答える芽衣。
怜王「あーん」
芽衣が戸惑いながらも控えめに口を開けた隙にサンドウィッチを食べさせる怜王。
怜王「美味しい?」
コクコクと何度も頷く芽衣。その様子を見て朱里と友樹はヒソヒソと話している。
朱里「ちょっと、近すぎない!?」
友樹「罪な男だよな」
朱里「芽衣には刺激強すぎだよ」
芽衣がこれほどまでに男子への免疫がない理由は中学生の頃に遡る。

〇(回想)芽衣と朱里の小学生時代
男子に混ざり外で活発に走り回っている芽衣と朱里。
芽衣「あっ!カブトムシ見っけ!」
朱里「わー!かっこいい!」
小学生の頃は男女関係なく友達だと思っていた。

〇(回想)芽衣と朱里の中学生時代
中学生になると自然と男子同士、女子同士に分かれることが増え、友達の輪が制限されるようになっていった。
女「私、好きな人できた!」
女「えー!教えてー!」
会話の内容もかっこいいカブトムシの話から誰がタイプかという所謂恋バナがメインになった。
そして朱里に初めての彼氏ができたのもこの頃だった。
朱里「芽衣は好きな人いないの?」
芽衣「んー、わからない」
これまで性別関係なく友達だと思っていた芽衣には恋がわからなかった。
そんなある日、芽衣はクラスメイトの男子から声をかけられた。
男「放課後、遊びに行かない?」
芽衣「え、えっと…」
男子を異性として意識し始めたばかりの芽衣は、どう接していいのかわからず俯いたまま黙ってしまう。
男「はぁ、そんなに嫌ならいいよ」
いつまでも答えを出さない芽衣の様子に呆れている。
芽衣「違っ…!」
背中を向けて去っていく男子を見て落ち込む芽衣。
この出来事がきっかけで芽衣は自然と男子を避けるようになっていた。
その結果、男子に対して免疫がないピュアな女子高生になってしまったのだ。
(回想終了)

〇学校・屋上(昼休み)
朱里「それで、まずは男子と友達になるところから慣れていこうってわけ」
怜王と肩を組む友樹。
友樹「じゃあ、ハリちゃんがいつか彼氏をつくるためのお手伝いしますか!」
怜王「俺ら“友達”だもんな」
深々と頭を下げる芽衣。
芽衣「よろしくお願いしますっ!」
友樹「友達といえば、放課後の寄り道でしょ!」
朱里「それそれ!」
ノリノリの朱里と友樹だったが、予定があることを思い出して申し訳なさそうな表情へと変わる。
友樹「でも俺、部活あるんやった」
朱里「私も、今日は彼とデートなんだ」
怜王「じゃあ、俺と一緒に行こ」
中学生の頃の記憶が蘇る芽衣。
芽衣(あのときみたいに何も答えられず勘違いされたくない、今度こそ逃げずに自分の意思をしっかり伝えないと…!)
一生懸命に頷く芽衣。
怜王「ふはっ、楽しみだな」
芽衣の成長を見て、我が子が旅立つときかのように泣き真似をしている朱里と友樹。
友樹「ハリちゃんのことは頼んだぞ」
朱里「芽衣をよろしくね」

〇学校・昇降口(放課後)
怜王「クレープ好き?」
芽衣「好き!…です」
甘い物に目がない芽衣は食い気味で答えたことが恥ずかしくなり、語尾がか細い声になる。
怜王「じゃあ、決まり」

〇クレープ屋さん(放課後)
列に並ぶ芽衣と怜王。豊富なメニューに芽衣は目をキラキラと輝かせている。
芽衣(やっぱり王道のチョコバナナかな、オレンジスペシャルもいいな)
怜王「どれにする?」
悩みに悩んだ芽衣は王道のチョコバナナを指差した。
怜王「俺はオレンジスペシャルにしようかな」
店員さんからクレープを受け取った芽衣と怜王は外にあるベンチに座る。
怜王「食べる?」
芽衣が悩んでいたのを見ていた怜王は当たり前のようにそう言った。
芽衣はオレンジスペシャルクレープと怜王の顔を交互に見る。
芽衣「…いただきます」
キラキラ輝くオレンジの誘惑には勝てず怜王が持っているクレープを一口食べる。
芽衣「ん〜おいひい!」
口の中に広がるオレンジの味。芽衣の表情は幸福感に満ち溢れている。それを優しい眼差しで見つめる怜王。
怜王「ついてる」
芽衣の口元についたクリームを指で拭って舐める。
芽衣「へっ?」
ボンっと爆発しそうなほど顔が真っ赤になる芽衣。それを見て満足そうな怜王。

〇ゲームセンター(放課後)
甘いものを食べて至福のひとときを過ごした後に向かったのはゲームセンター。賑やかな音が響き渡る店内。
芽衣が食いついたのは、一緒に寝ているハリネズミのぬいぐるみと同じキャラクターのマスコット。
芽衣(かわいいっ!)
ハリネズミのマスコットと芽衣を見比べる怜王。
怜王「そっくりじゃん」
そう言って慣れた手つきでクレーンゲームを操作すると一発でお目当てのマスコットをゲットした。同時にライオンのマスコットも獲得。それを見て拍手をする芽衣。
芽衣「すごいっ!」
ハリネズミのマスコットを芽衣に渡す。
怜王「はい、どうぞ」
芽衣「えっ、いいの?」
ライオンのマスコットについているチェーンに指を通して揺らす。
怜王「おそろい」
芽衣「ありがとう…!大切にしますっ!」
両手でハリネズミのマスコットを包み込むように持って嬉しそうな芽衣。
それからもゲームセンターを満喫した芽衣と怜王。ふと視界に入ったのはズラリと並んだプリクラの機械。
怜王「オススメは?」
撮る気満々の怜王に聞かれた芽衣は、いつも朱里と撮っているお気に入りの機械を指差す。
画面に表示されたコースを選択してねという文章。
仲良しお友達コース or ラブラブカップルコース。
怜王「どっちにする?」
迷わずお友達コースを選ぼうとしていた芽衣の指が止まる。その上から手を重ねる怜王。
怜王「今日はこっちにしよっか」
芽衣の指が触れたのは仲良しお友達コースだった。
「人差し指を顎に当ててあざといポーズ!」
「やっぱり王道ギャルピース!」
機械から流れる女性の声に合わせて撮影していく。
「ほっぺをくっつけて仲良しポーズ!」
突然の密着する指示に動揺する芽衣。お構い無しに近寄る怜王。そのままシャッター音が鳴る。
芽衣(近い近い!近すぎますっ!)
ドキドキの撮影を終えてらくがきブースへと移動する。
怜王「この表情かわいい」
最後にほっぺをくっつけて撮った芽衣の表情がお気に入りの怜王。
ちょっぴり間抜けな自分の表情を見た芽衣はスタンプで隠そうとするが、あっさり怜王に阻止される。

〇帰り道(夕方)
ゲームセンターを出ると夕暮れ時になっていた。駅まで並んで歩く帰り道。
芽衣(あっという間だったなぁ…)
ちょっぴり寂しそうな芽衣。
怜王「次、行きたいところ考えといて」
それを聞いた芽衣の表情がぱぁっと明るくなる。
芽衣(次もあるんだ!)
芽衣と怜王のスクールバッグについているお揃いのマスコット。
芽衣の中学生時代の苦い思い出は楽しい思い出に塗り替えられた。

〇芽衣の部屋・ベッドの上(夜)
ハリネズミのぬいぐるみと向かい合うように座り、怜王から貰ったハリネズミのマスコットを見せる芽衣。
芽衣「お友達、連れて帰ってきたよ」
眠りについた芽衣の腕の中には、いつも一緒に寝ているハリネズミのぬいぐるみだけではなく、ハリネズミのマスコットもいた。