〇学校・校門付近(朝)
登校中の生徒たち。男子生徒の話し声が聞こえてくる。
男「針山さんってかわいいよな」
耳をピクッとさせて反応する針山 芽衣。
男「わかるわ〜、守ってあげたくなるよな」
男子生徒が絶賛するその容姿は、ふわふわのボブヘア、くりっとした目は小動物のような愛らしさ。
しかし、芽衣は今までの人生で一度も告白されたことがない。なぜなら…
男「でも、男には冷たいらしいじゃん」
芽衣(違うの!冷たいわけじゃなくて、男の子を目の前にすると上手く話せないだけなの!)
男「そうそう、男は寄せ付けないって感じだよな」
芽衣(寄せ付けないわけじゃなくて、私が男の子に近づけないだけなの!)
そう、芽衣は男子に免疫がない初心(うぶ)すぎる女子高生なのだ。
芽衣(私も男の子と仲良くなりたいんだけどな…)

〇学校・屋上(昼休み)
お昼ごはんを食べている芽衣とその親友の鹿野 朱里。
芽衣とは幼稚園からの幼馴染で、高校生になった今も同じクラス。
前髪なしの外はねヘア、切れ長の目、大人っぽい容姿と面倒見の良い性格もあり、中学生時代のあだ名は姐御だった。
そんな朱里にも恋のコンプレックスがある。
朱里「彼氏できましたー!」
何度目かわからないその報告に芽衣は呆れ顔。
芽衣「今回こそは長続きすればいいけど」
朱里「安心して、ついに運命の人に出会ったの!」
芽衣「それ、前も言ってたような」
そう、朱里はとことん男運が悪いのだ。そして本人はそれを自覚していない。
付き合っては散々な別れ方をして「もう恋なんてしない!」と言うが、数週間後にはケロッと新しい恋をしている。
その度に慰めてきた芽衣にとって、この報告は不安でしかない。
朱里「芽衣は最近どうなのよ」
それを聞いた途端に表情が固くなる芽衣。それもそのはず、芽依は男子を目の前にすると緊張してまともに話せないのだ。
朱里が片手を突き上げると芽衣も同じように片手を突き上げて、コールアンドレスポンスを始める。
朱里「彼氏がほしくないのかー!」
芽衣「ほしいー!」
朱里「手を繋いでみたくないのかー!」
芽衣「繋いでみたーい!」
朱里「キスしたくないのかー!」
芽衣「したいー!私だってしてみたいけど…」
項垂れる芽衣の肩を両手でガシッと掴み、気合いを入れる朱里。
朱里「まずは男子と友達になって慣れていこう!」

〇学校・教室(放課後)
自分の席に座り学級日誌を書いている芽衣。
芽衣「まずは男の子と友達になるか…」
ぽつりと呟いた独り言は、芽衣しかいない静かな教室に消えていく。
そこに足音が聞こえてきて芽衣が廊下を見ると男子生徒が歩いている。そして、その足音は芽衣がいる教室の前で止まった。
芽衣(このままじゃ男の子とふたりきりになる…!)
それを回避しようと芽衣は咄嗟に目についた教卓の下に急いで隠れる。
それから間もなくして教室に入ってきた男子生徒。
芽衣(ふぅ〜、何とか間に合った)
胸を撫で下ろしたのも束の間、今度は女子生徒が教室に入ってきた。教卓の下で息を潜めている芽衣。
葉月「獅子尾くんのことが好きなの、私と付き合ってくれないかしら?」
芽衣(えーっ!?こ、告白?)
怜王「ごめん、友達といるのが楽しいから誰とも付き合う気はない」
芽衣(しかもフラれちゃった…)
告白した女子生徒は悔しそうに教室を出ていく。
芽衣(盗み聞きしちゃってごめんなさい)
顔の前で手を合わせて心の中で謝る芽衣。そんな芽衣が隠れている教卓に近づいてくる足音。
実は教室に入るとき、教卓の下に隠れる芽衣を見ていた怜王。教卓に手をついて芽衣が隠れているところを覗き込む。
怜王「盗み聞きはいただけないな」
芽衣が恐る恐る顔を上げると目の前に怜王の顔がある。
芽衣(ち、ち、近すぎます!)
男子への免疫がない芽衣にとっては、あまりにも近すぎる距離にキャパオーバー寸前。そんなのお構いなしに近づいてくる怜王。
芽衣「す、すみませんでしたっ!」
教卓の下から抜け出した芽衣は荷物を抱えて、ビューンッと逃げるように教室を出ていく。
怜王「へぇー、面白そうじゃん」
顔を真っ赤にして教室を出ていった芽衣を見て、怜王は意味深な笑みを浮かべた。

〇芽衣の部屋・ベッドの上(夜)
もこもこの部屋着姿で、ハリネズミのぬいぐるみを抱きしめている芽衣。
芽衣「めっちゃ距離近かったよね!?」
ハリネズミのぬいぐるみを怜王に見立てて、顔を近づける。
芽衣(男子高校生ってあんな感じなの?こんなんで私、男の子の友達できるのかな…)
そのまま仰向けに寝転がる芽衣。

〇学校・昇降口(朝)
上履きに履き替えている芽衣。聞こえてくる会話は校内一のモテ男と美少女の話ばかり。
女「あの、葉月さんが振られたんだって!」
女「獅子尾くんが彼女つくらないって本当だったんだ」
芽衣(ん?獅子尾って聞いたことあるような…)
どこかで聞いた覚えのある名前に首を傾げながらも教室へ向かう芽衣。

〇学校・教室(朝)
いつも以上に盛り上がっている生徒たち。芽衣が自分の席に着くと駆け寄ってくる朱里。
朱里「おはよう!」
芽衣「おはよう、みんなすごい盛り上がってるね」
スクールバッグの中身を机の上に出しながら話す芽衣。
朱里「獅子尾くんが葉月さんのこと振ったって話題で持ちきりよ」
芽衣「そんなに有名な人なの?」
朱里「獅子尾くんは頭脳明晰、運動神経抜群、何と言ってもビジュアルが神!」
獅子尾 怜王。ライオンのたてがみのような茶髪で襟足が長め、凛々しい目と圧倒的な存在感はまさに百獣の王。
朱里「そして、葉月さんは清楚で上品な美少女」
綺麗な黒髪ロングのハーフアップ、透き通るような白い肌、すれ違うとふんわり香るお花の匂い、その存在はまさに高嶺の花。
芽衣「その美少女が振られちゃったんだ」
朱里「それで朝から騒いでるってわけ」
芽衣「告白か…」
昨日の放課後のことが頭に過ぎる芽衣。

〇学校・教室(昼休み)
芽衣がスクールバッグからお弁当を取り出していると黄色い歓声が聞こえてくる。
女「キャー!獅子尾くん!」
女「今日もかっこいい!」
そこに現れたのは怜王とその友達の相馬 友樹。
友樹「俺もいるんやけど!?」
関西弁でツッコむ友樹は関西出身のムードメーカー、左目の下にあるほくろがチャームポイントの爽やかイケメン。
怜王「あ、いた」
それら全てが見えていないかのようにお目当ての芽衣を見つけると一直線に向かっていく怜王。
それに気づいた朱里は目を見開いて、勢い良く芽衣の方を振り向く。
朱里「えー!?獅子尾くんと知り合いなの?」
芽衣に男子の知り合いなどいる訳もなく、思いっきり首を横に振る。
怜王「お昼、一緒に食べよう」
芽衣に顔を近づける怜王。それを見て、一際大きくなる周囲の歓声。
湯気が出そうなほど顔を真っ赤にしている芽衣。
朱里(やばい!芽衣がキャパオーバー寸前!)
その危機的状況を察して、芽衣と怜王の間に朱里が割って入る。
朱里「私も一緒にいいかな?」

〇学校・屋上(昼休み)
朱里の後ろに隠れてチラッと顔を見せる芽衣。
友樹「なんか小動物みたいでかわいいな」
ほぼ面識のない怜王と友樹に警戒心MAXの芽衣。
怜王「ハリネズミみたいだな」
朱里「この子、あんまり男子に免疫ないからお手柔らかに」
それを聞いてニヤリと口角を上げる怜王。
怜王「昨日はどうも」
朱里「昨日?」
不思議そうな表情を浮かべる朱里に昨日の出来事を話す芽衣。それを聞いた朱里は驚きを隠せない。
朱里「えぇぇ!?」
そこでハッと名案を思いついた朱里は耳打ちで芽衣に伝える。
朱里「まずは友達から慣れようのチャンス!」
芽衣「で、でも…」
モジモジしている芽衣の背中を押す朱里。
朱里「行ってらっしゃい!」
芽衣(このチャンスを逃せば一生このままかもしれない)
覚悟を決めた芽衣は全力で頭を下げてお願いする。
芽衣「私と友達になってくださいっ!」
女子から恋人になってほしいと告白されることは日常茶飯事の怜王。しかし、友達になってほしいと言われたのは初めてで、鳩が豆鉄砲を食ったような表情になる。
怜王「よろしくね、ハリネズミちゃん」
怜王に頬をムニッと挟まれ話しづらそうな芽衣。
芽衣「針山でふ」
友樹「ハリちゃん!俺とも友達になってや!」
芽衣(私にも男の子の友達ができた…!)
このときの芽衣はまだ知らなかった。
距離感が近すぎる距離感バグ男子の怜王とドキドキの高校生活を送るということを。