望月の言葉に僕は息を飲む。

望月は笑顔のまま僕を見ている。

……人の命を賭ける、
なんて、それこそ不謹慎で非人道的な事を言っているなんて、
今の望月の笑顔からは誰も想像出来ないだろう。

そう思う程に望月の笑顔からは悪意を感じられない。

「ね?
いいでしょ?」

にこにこと効果音がつきそうな程に屈託のない笑顔でそう聞いてくる望月に、
僕は視線を下に向けて話す。

「それって、僕にとって何かメリットある訳?
望月は勝っても負けても何もないじゃん。
僕だけ命を掛けるとか、おかしくない?」

僕の言葉に望月はきょとんとした顔を見せる。

「そっかぁ、
うん、そうだよね。
うーん……」

少し斜め上に視線を向け、右手を顎につける、
なんてベタな姿勢で望月はうんうんと唸る。

「あ!
じゃあ、こうしよう!」

良いこと閃いたとでも言いたげに望月はパッと顔を上げると、笑顔で僕を真っ直ぐに見た。

「君が死ぬ時は、
一緒に死んであげるよ」

……何を、言っているのか、
一瞬、理解出来なかった。

いや、理解出来るはずがなかった。

僕と望月は単なるクラスメイトという関係だけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。

必要最低限の言葉は交わした事はあるが、
本当にそれだけだ。
仲がいいとか、全くない。

望月はいわば一軍の女子だ。
クラスカーストトップのグループ。
いつもまわりには男女関係なく人が集まっている。

対して僕は二軍、三軍辺りの地味な男子。
害にもならないが、いてもいなくてもクラスに影響なんてない。

そんな僕とは正反対な望月が、
僕と一緒に死ぬ……?

本当に、何を言っているのだろうか。
僕をからかっているのか。

……そうか、
そうだよな。

望月みたいなクラスの中心にいる女子が、
僕に興味がある訳がない。

たまたまクラスの男子が死にそうな感じだったから、
何となく声をかけて、
からかってるだけ、なんだ。

明日にはクラスメイトに今日の僕の事を面白可笑しく話すんだろう。
そして僕は、
またクラスでも学校でも、
居場所を失うんだ。

「ねぇ、聞いてる?
早見く……」

「からかいたいだけなんだろ?
一緒に死ぬとか、
そんな気ないくせに」

望月の言葉を遮り少し大きな声でそう言った僕を、
望月はやっぱりきょとんとした顔で見る。

「望月からしたら僕はいてもいなくてもどうでもいい存在だもんな。
明日のいいネタが出来たって感じ?」

少し試すような嫌な言い方をした。
……こんな人間だから、
生きている意味も分からないんだ。
こんな人間だから、
死ぬ事を考えてしまうんだ。

こんな、
嫌な言い方しか出来ないから。

「……そっか、
じゃあ……」

そう言って望月は僕の腕を掴んだ。

「だったら、今
一緒に死のうか」

「え……?」


そう言って望月は僕の腕を掴んだまま、
踏み切りに近づく。

「望月……?
何を……」

「うん?
だから、今から一緒に死ぬんだよ?」

「何言って……」

僕の言葉を無視するかのように、
僕の腕を引いて望月はそのまま線路へと歩いていく。


心臓がドクドクと痛いくらいに音を立てる。
きっと今の僕は恐怖から情けない顔をしている。

なのに望月は、
相変わらず笑顔でそのまま線路の真ん中に立つ。

「このままここにいたら、
一緒に死ねるね」

そう言って笑う望月を、
月が明るく照らしている。


「明日は私達、1番のネタだね」

本気、なのか……?

本気で、
僕と一緒に、
死ぬつもり、なのか……?


「……駄目だ!」

そう、口にして僕は望月の手を引き踏み切りから離れた。