耳に電車が過ぎる音が響く。

振り向いた先にはクラスメイトの望月灯里がいた。

「死ぬなら飛び込みは止めなよ、ぐちゃぐちゃになっちゃうよ?」

そう言って僕の肩を掴んだままの望月の長い髪が風になびく。

……最悪だ。
クラスで浮かないように今まで必死に取り繕ってきたのに。
死のうとしてたなんて、
そんな事バレたら、クラスメイトは何て言うだろう。

いい笑い者になる。

とにかく、望月に口止めしておかないと。
じゃなきゃまた、
僕はクラスで、学校で、

居場所を失ってしまう。

「あのさ、望月……」

「死ぬならさ、私と賭けをしようよ」

「え……?」

僕の言葉を遮り、
そう、突拍子もない事を言う望月に、
僕はそれ以上何も言えなくてただ望月を見る事しか出来ない。

望月は笑っていた。

今、目の前でクラスメイトである僕が死のうとしたのを見て、
訳の分からない事を言って、
彼女は笑っている。

こんな状況、誰が想像出来るんだ。

「死ぬ位ならさ、私と少し遊んでからでもいいでしょ?」

なおも笑顔のまま、そんな理解出来ない事を言ってのける望月に、
僕は死ぬ気も、見られた恥ずかしさも何だか削がれてしまった。


「……賭けって?
何を賭けるの?」

ポツリと問いかけた僕の小さな声に、
望月は相変わらず可笑しそうに笑いながら僕の質問に答える。

「そうだなぁ、
命、なんてどう?」

「命?」

「そう。
だって君、今死のうとしてたんでしょ?
だったら命賭ける位、なんてことないよね?」

命を賭けた行動を止めといてよく飄々と言えるな、
なんて少し呆れながら望月を見る。

そんな僕の気持ちになんて気づいていないんだろう、
望月はやっぱり笑顔のまま、
僕に言ってのけた、

「君が勝ったら、君は生きる。
私が勝ったら、君には死んでもらうね」

そう言った彼女を、
月が明るく照らしていた。