放課後、夕日が沈む中
僕はひとり家へと歩いていた。

今日も1日が終わる。

何かあったとかない。
嬉しい事も、悲しい事も何も。

何ひとつ、変わらない1日。

「はぁ……」

口から溢れた大きなため息。

目に写る景色も何も変わらない。

いつもの踏み切りで足を止める。
ここの踏み切りは長い。

カンカンと耳に響く高い音。

……今、この遮断器をくぐり抜けたら、
僕は、
この世界から抜け出せるのかな。

なんて考えるのも何度目か。

そんな事、もう何度も考えているのに実行に移す事をせず、
僕は同じ毎日を明日からまた過ごすんだ。

「……ははっ」

口から乾いた笑いが溢れた。

ふとまわりを見渡す。
夕日が完全に沈み、薄っすらと暗くなる中、
僕のまわりには誰もいない。

……今なら、
誰にも気づかれず、止められず、
自分で人生の幕を閉じられる……?

胸がドキドキと煩く鳴った。
高揚感を感じる。
不謹慎にもほどがある、
だけど、
僕は今、
何だか生きてる実感を感じていた。


……このまま、
遮断器をくぐり抜け、立ってるだけで
僕は、
このつまらない毎日から解放される、

カンカンと耳障りだった音が遠くなる。

ゴクリと唾を飲み込み、
僕は汗ばむ手で遮断器を持った。


今なら、
今なら、いける……!

そう思い、
遮断器を持ち上げようとしたその瞬間、
急に後ろから肩を叩かれた。

あり得ない位に胸が強く音を立てた。

誰かに、
見られてた……?

そんな恐怖と恥ずかしさで僕は後ろを振り向く事さえ出来ない。
手は更に汗ばむ。
背中にも嫌な冷たい汗が流れる。

そんな僕の後ろから聞こえたのは、
今の状況に似つかわしくない、
明るく透き通った声だった。

「死にたいの?
早見君」


それが、
僕と彼女、
望月灯里のはじめての会話だった。