ある日、オヤジと設計委員会の学者が口角泡を飛ばして議論しているのを見かけた。
 思わず耳をそばだてたが、何を言っているのか、よくわからなかった。
 知らない言葉がいっぱい出てくるのだ。
 学者は専門用語を次々に繰り出してくる。
 それに対してオヤジは一歩も引くことなく議論を戦わせている。
 こんなオヤジを見たことがなかった。
 宮大工の棟梁として超一流の技術を持っているだけでなく、学者と議論できる知識も持っているのだ。
 凄いと思うと同時に自らの限界を感じた妹はある決心をした。
 建築の基本を学び、学者と議論できるだけの知識を身につけることを決めたのだ。
 
 宮大工の技術だけを磨いても棟梁にはなれない、もっと幅広い知識を、学者と渡り合える専門知識を身につけなければ才高家第23代の棟梁にはなれない、
 
 そう悟った妹は躊躇(ためら)わず工学部建築学科の夜間社会人コースに入学した。
 そして昼は宮大工修行、夜は大学生として寝る間を惜しむ努力を続け、古から伝わる技術を磨くと共に木工から土木工学まで幅広く多くの知識を吸収していった。