熱が下がって体調が回復すると、「金堂の模型を作りなさい」とオヤジに命じられた。
 自分で描いたスケッチを基に実物の二十分の一の精緻な模型作りを命じたのだ。
 それは、『描くことで目に焼きつけ、作ることで腕に憶えさせる』という才高家が代々受け継いできた本格的な宮大工修行が始まったことを意味していた。
 と同時にオヤジはもう一つのことを指示した。
 
「毎日1時間カンナを研ぎなさい。模型が出来上がるまで研ぎ続けなさい」

 そして、
「一つだけ教えてやる。へそ(・・)に力を入れろ。カンナはへそ(・・)で研げ」
 と付け加えた。