その夜、妹は熱を出し、3日間寝込んだ。
 そして、うわ言のように「あ・す・か」と何度も言い続けた。
 
「あ・す・か」とは飛鳥時代のこと。
 法隆寺が建立(こんりゅう)された古の時代。
 法隆寺は約1300年前から奈良・斑鳩(いかるが)の地に佇む世界最古の木造建築であり、1993年に日本初の世界文化遺産に登録された至宝である。
 
 妹は夢の中で声を聞いた。
 
「木の声を聴きなさい。木の心を感じなさい。そして、木と話しなさい」

 それは、飛鳥時代の宮大工、法隆寺を建立した宮大工の声だった。
 
 妹はうなされながらも、「木の声を聴きたい、木の心を感じたい、木と話したい、飛鳥時代の宮大工に会いたい」と夢の中でひたすら求め続けた。
 それが叶うことはなかったが、それでも求め続けた。
 あ・す・か……と何度もうわ言を言いながら。