匠がしゃべった翌日、そのことをオフクロに話すと、喜ぶどころかすまなそうな顔になって、いきなり「ごめんね」と謝られた。
どうしてそんなことを言うのかわからなかったが、「実はね」と言ってオヤジのことを話し始めた。
「あなたたちが仕事に行っている間、匠ちゃんを預かっているでしょう。するとね、何処からかあの人が現れて匠ちゃんを連れて行ってしまうの。何しているのかなって、こっそり見てみるとね、匠ちゃんに向かって何かブツブツ言っているの。遠くから覗いていたからよく聞き取れなくて、なに言っているのか、すぐにはわからなかったの。でも、あの人の口元を見ていて」とそこで何故か笑い出した。
「なんだよ。オヤジはなんて言ってたんだよ」
わたしは焦れて詰め寄るような感じになったが、オフクロは無理矢理に笑いを治めるようにしてその訳を話し始めた。
「『じ・い・じ』と言ってたの」
じ・い・じ?
「膝の上に匠ちゃんを乗せた状態で人差し指で自分の顔を指して、『じ・い・じ』と何度も何度も言い続けていたの。あの人はきっと」
わかった。何故、匠が「じ……じ……」と言ったのか、やっとわかった。
「ママ」より「パパ」より先に「じいじ」と言わせたかったのだ。
なんてことだ、
オヤジにしてやられた。
完全に出し抜かれてしまった。
しかし臍を?んでも後の祭りで、今更どうしようもなかった。
悔しかったが、でもそれを表には出したくないので無理して匠をあやしていると、膝の上で一生懸命匠に話しかけているオヤジの姿が頭に浮かんできた。
あのオヤジが……、
その変わりように驚いたが、それよりも可笑しさが上回って声が出そうになった。
それは妻やオフクロも同じようで、顔を見合わせた瞬間、同時に吹き出してしまった。
するとそれにつられるように匠がにっこり笑って何かを言った。
しかし、よく聞き取れなかった。
「な~に?」
顔を近づけて目を見つめると、これ以上はないというほどの笑みを浮かべて可愛い声を出した。
「じ……じ……」
「あ~」
思わず声が出てしまったが、もう悔しいという気持ちは消えていた。
それでも首を揺らしていると、「ごめんね」と気の毒に思ったのかオフクロが謝った。
でもオフクロのせいではないので気にしていないというふうに慌てて手を振って笑いを返したが、その時ふっとオヤジの顔が浮かんできた。
それは勝ち誇ったような顔ではなく、目尻の下がった好々爺そのものだった。
親孝行ができたかもしれないな、
ふとそんなことが頭に浮かんだ。
どうしてそんなことを言うのかわからなかったが、「実はね」と言ってオヤジのことを話し始めた。
「あなたたちが仕事に行っている間、匠ちゃんを預かっているでしょう。するとね、何処からかあの人が現れて匠ちゃんを連れて行ってしまうの。何しているのかなって、こっそり見てみるとね、匠ちゃんに向かって何かブツブツ言っているの。遠くから覗いていたからよく聞き取れなくて、なに言っているのか、すぐにはわからなかったの。でも、あの人の口元を見ていて」とそこで何故か笑い出した。
「なんだよ。オヤジはなんて言ってたんだよ」
わたしは焦れて詰め寄るような感じになったが、オフクロは無理矢理に笑いを治めるようにしてその訳を話し始めた。
「『じ・い・じ』と言ってたの」
じ・い・じ?
「膝の上に匠ちゃんを乗せた状態で人差し指で自分の顔を指して、『じ・い・じ』と何度も何度も言い続けていたの。あの人はきっと」
わかった。何故、匠が「じ……じ……」と言ったのか、やっとわかった。
「ママ」より「パパ」より先に「じいじ」と言わせたかったのだ。
なんてことだ、
オヤジにしてやられた。
完全に出し抜かれてしまった。
しかし臍を?んでも後の祭りで、今更どうしようもなかった。
悔しかったが、でもそれを表には出したくないので無理して匠をあやしていると、膝の上で一生懸命匠に話しかけているオヤジの姿が頭に浮かんできた。
あのオヤジが……、
その変わりように驚いたが、それよりも可笑しさが上回って声が出そうになった。
それは妻やオフクロも同じようで、顔を見合わせた瞬間、同時に吹き出してしまった。
するとそれにつられるように匠がにっこり笑って何かを言った。
しかし、よく聞き取れなかった。
「な~に?」
顔を近づけて目を見つめると、これ以上はないというほどの笑みを浮かべて可愛い声を出した。
「じ……じ……」
「あ~」
思わず声が出てしまったが、もう悔しいという気持ちは消えていた。
それでも首を揺らしていると、「ごめんね」と気の毒に思ったのかオフクロが謝った。
でもオフクロのせいではないので気にしていないというふうに慌てて手を振って笑いを返したが、その時ふっとオヤジの顔が浮かんできた。
それは勝ち誇ったような顔ではなく、目尻の下がった好々爺そのものだった。
親孝行ができたかもしれないな、
ふとそんなことが頭に浮かんだ。