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「じ……」

 わたしは妻と目を合わせて驚いた。
 
 今、もしかして、
 
 固唾(かたず)を呑む中、再び子供が口を開いた。
 
「じ……じ……」

 しゃべった。
 子供がしゃべった。
 わたしと妻は目を丸くした。
 今までは「アー」とか「ウー」とか「んぐんぐ」としか言わなかったのだ。
 それ以外の言葉をしゃべるのはもっと先だと思っていた。
 しかし、今日はそんなクーイングとはまったく違っていた。
 
 でも、「じ……じ……」って、なんだ? 
 普通はママの「マ」か、パパの「パ」だろう?
 「じ」ってなんだ?
          
 結城恵が才高恵になり、わたしたちは、わたしの実家がある町に引っ越していた。
 そして1年後、わたしたちの許に天使がやって来た。
 天使の名前は、(たくみ)
 この名前にオヤジは大喜びした。
 結婚式では表情を変えなかったオヤジが孫の顔を見るなり目尻が3センチ下がった。
 名前を聞くなり口元が2センチ緩んだ。
「初孫は目に入れても痛くない」と言うが、まさかオヤジがそうなるとは思わなかったし、信じられなかった。