間を置かずウエイターがカクテル・メニューを持ってきた。
 わたしはメニューを開きながら、そっと横の様子を窺った。
 彼女は星を見るのに夢中になっているようだったので、小さな声で2種類のカクテルを注文し、持ってくる順番を告げた。
 彼はその意図を理解して笑みを浮かべ、目礼してメニューを下げた。
 彼女はまだ星空を一心に見つめていた。
 
 心地良いジャズの調べに身を任せていると、最初のカクテルが運ばれてきた。
『アムール・エテルネル』
 グラスを彼女に向かって掲げると、何も知らない彼女は掲げ返して口元に運んだ。
 すると、甘い香りに誘惑されたのか、うっとりとしたような表情になった。
 それを見てわたしは心の中で囁いた。
 フランス語で『永遠の愛』という意味なんだよと。
 
 2杯目のカクテル『エプーズ・モア』が運ばれてきた。
 口づけるように彼女のグラスにわたしのグラスを合わせた。
『結婚してください』という名前のカクテルが彼女を口説くように酔わせていった。

 BGMが変わり、囁くようなサックスの音色に続いて低音の切なく甘い歌声がラウンジを満たしていった。
『MY ONE AND ONLY LOVE』
 ガーシュインの名曲だった。
 そして、ジョン・コルトレーンのサックスとジョニー・ハートマンのヴォーカルだった。
 それは、わたしの心を代弁するかのようなロマンティックな演奏と歌だった。