わたしが作詞したデビュー曲は新人としては大成功の10万枚のヒットになり、150万円の印税が入ってきた。
 その上、2作目の作詞依頼が来た。
『爽やかで、かつ、甘酸っぱい恋の歌』を求められていた。
 契約金は無かったが、印税率は1.7パーセントにアップした。
 この曲がヒットしたら、わたしの、いや、わたしたちの次の夢が叶うかもしれないと思うと、思わず肩に力が入った。
 しかし、そんな状態で爽やかな歌詞を生み出すことは無理なので、大きく息を吐いて体中の力みを追い出し、心を無にするために目を閉じた。
 すると、静かな森や、そこを流れる小川、爽やかな風、穏やかな海、日暮れの街角が浮かんできた。
 それはイメージにぴったりの情景だった。
 その中に結城の顔を重ねると、付き合い始めた頃の切ない想いが蘇ってきた。
 わたしはペンを握り、ノートに向き合った。