その後二人で過ごす時間が増えるにつれ、お互いが置かれた立場について話し合うことが多くなった。
 
「継ぐべき家業が無くなった私と家業があっても継がなかったあなたがこうして一緒にいるのは不思議ね」

「本当だね。切望しても叶わなかった君と切望されたにもかかわらず断ったわたしが出会ったことも何かの縁なのだろうね」

「それも大阪でね。京都出身のあなたと島根出身の私が大阪の小さな会社で一緒に仕事をするようになるなんて、本当に不思議」

「もしかしたら運命かもしれないね。出会うようにできていたのかもしれない。生まれる前から運命の糸が繋がっていたのかもしれないね」

「そうかもしれないわね。でも、その糸はどこに結ばれているのかしら」

 彼女が両手の10本の指をじっと見つめたので、「そこじゃないよ、ここだよ」とわたしは彼女の心臓の上に手を置いた。
 丸くて柔らかくて温かった。
 
「離さないでね」

 彼女もわたしの心臓の上に手を置いた。

「繋がったね」

 お互いの生命の拍動が同期しているように感じると、溶け合って一つになったように思えた。

 大切な人……、

 わたしは愛おしく彼女を抱きしめた。
 そして、彼女との行く末に思いを馳せた。