3年間耐え続けたあと、これ以上居ても意味がないと思った結城は転職を決意した。
 今度はアシスタントではなくカメラマンとして。
 しかし、アシスタントとしての経験しかない彼女を採用するところは皆無だった。
 5回連続して書類選考に落ちて途方に暮れた。
 それでも探し続けていると、ハローワークで現在の勤務先『会社案内企画』を紹介された。
 幸運にも応募が彼女一人だったこともあって契約社員としての採用が決まった。
 給料は19万8千円だった。
 
 喜びも束の間、信じられないような連絡を父親から受けた。
 写真館を廃業したというのだ。
 1年間赤字が続いて今後も黒字が見込めないため、借金がない今のうちに閉めたのだという。
 それだけではなかった。
 家と土地を売るという。
 その後は母親の実家に移って農業をするのだという。
 それを聞いて彼女はがっくりと膝をついた。
 せっかくカメラマンとしてのスタートを切れたのに目の前から夢が消えてしまったのだ。
 帰る場所さえ無くなってしまうのだ。
 
 そんな落ち込んでいる時にわたしが入社した。
 そして、作家として挫折した経緯を知った。
 どん底から立ち上がってライターを目指すことを知った。
 実家に戻る場所がないことも知った。
 それは自分が置かれている状況と似ているように感じた。
 だから「卒業おめでとうございます」という声が自然に出てきた。
 それは自分に対しての言葉であったし、実家を卒業するという宣言でもあった。