そんな状況もあって、結城が家業を継ぎたいと言った時、父親は猛反対した。
 先の見えない状況の中で一人娘が苦労するのが見えていたからだ。
 母親は表立って反対はしなかったが、といって応援してくれるというふうでもなかった。
 
 それでも短大を卒業する年の正月、再度両親に向き合った。
 父親のもとで腕を磨きたいこと、一人前になったらこの写真館を継ぎたいことを必死になって訴えた。
 しかし、父親が首を縦に振ることはなかった。
 自分の代で終わらせるという決断を変えるつもりはないと断言された。
 それでも諦めなかった。
 母親を味方に付けて父親を説得しようとしたのだ。
 でも状況は好転しなかった。
 母親は首を横に振るばかりで、娘と一緒に夫を説得しようとはしなかった。
 
 手立てがなくなった結城は断念するしかなかった。
 それでも、いつか写真館を継ぐという夢は諦めなかった。
 祖父が始めた写真館を無くしたくなかったし、祖父や父のように地域の人たちの笑顔を撮り続けていきたかった。
 人口減少県だからといって悲観したくなかった。
 なんとしてでも家業を続けていきたかった。
 何よりここは故郷なのだ。
 自分が生まれ育った場所なのだ。
 祖父母や両親が愛した土地なのだ。
 
 しかし、父親が反対する以上、実家で修業することはできない。
 といって県内に修行する場所は皆無に等しかった。
 悩んだ末に出した結論は大都市での修行だった。
 頭の中には修学旅行で訪れた大阪の街並みが浮かんでいた。
 日本を代表する大都市・大阪。
 そこならカメラマンのアシスタントとしての仕事があるに違いないと思ってネットで検索して仕事を探した。
 すると、すぐに見つかった。
 大阪市内にある結婚式場でアシスタントの募集を見つけたのだ。
 大きな結婚式場のようで、修業する場としては最適なように思われた。
 正社員ではなく契約社員としての募集だったが、そんなことはどうでもよかった。
 とにかく経験を積まなければならないのだ。
 一も二もなく応募した。
 すると、家業が写真館ということが幸いしたのか、すぐに採用が決まった。
 結城は夢を膨らませて大阪へ向かった。