アパートに帰って募集要項を読み返した。
 賞金は50万円。
 印税は1.5パーセント。
 オーディションに合格した18歳の男性二人組のデビュー曲で、発売は11月予定と書かれていた。
 作曲家は決まっていた。
 バラード調の曲が得意なよく知っている作曲家だった。
 
『しっとりと歌い上げる、哀愁のあるラヴ・ソング』

 それが、歌詞に求められる条件だった。
 
 しっとりと歌い上げる、哀愁のあるラヴ・ソングか……、

 口に出して確かめた。
 
 作れるだろうか? 
 小説家だった時のように作れるだろうか? 
 
 一瞬、不安が過ったが、誰かが、そして、何かが、ヤレ! と強く押した。
 目を瞑ると結城の顔が浮かび、プレミアム・シリーズが入った紙袋を受け取った時の嬉しそうな表情がはっきりと見えた。
 その瞬間、作れるかどうかではなく、作らなければならないと思った。
 今の給料では結城を幸せにすることができないからだ。
 居ても立ってもいられなくなって部屋の隅に置いていた仕事用のバッグから取材用のノートを取り出し、3ページ分破って、ボールペンを走らせた。
 晩秋漂う街を思い浮かべながら、枯葉の舞い散る公園のベンチを思い浮かべながら、結城への想いを綴っていった。