才高家の跡継ぎとして第23代当主になることが運命づけられていたわたしは幼い頃から宮大工の技を仕込まれ、当主の心構えを叩きこまれた。
 しかし、関心が別の方面に向いていたことと手先が不器用で精巧な細工が苦手だったこともあり、宮大工を天職にするという強い想いは湧き出てこなかった。
 それでも父に背く勇気のないわたしは定められた目標に向かって歩き続けるしかなかった。
 
 高校3年生の春、父に呼ばれて部屋に行くと、「卒業後は宮大工として働きなさい」と半ば命令のように告げられた。
 
 わたしは返事ができなかった。
 まったく自信がなかった。
 無理だとは言えなかったが、わかりましたとも言えなかった。
「ちょっと時間をください」と言うのが精一杯だった。