「親戚が大きな洋品店をやっていました。その一角を貸してもらったのです。家賃は出世払いでいい、と言ってくれました。ありがたかったです。小さなスペースに製品を並べて手作りのPOPでディスプレーしました。そして来店客を親戚から紹介してもらい、お肌の悩みを聞き出しながら製品の特長を説明しました。初めて買っていただいたお客様の顔は今でもはっきりと覚えています。一生忘れないと思います」

 社長の顔に笑みが戻った。

「来店客へのアプローチが軌道に乗ると、次は顧客名簿を活用させてもらいました。その洋品店では3か月に一度、優良顧客に向けてダイレクトメールを送っていました。優待セールの案内です。その封筒の中に化粧品の紹介チラシを同封させてもらったのです。それも無料で。ありがたかったです。本当にありがたかったです。それによってまた愛用者が増えていきました。しかし何度か繰り返すうちに頭打ちになってきたので、次の策を考えて実行しました。近隣のすべての家にチラシを配ることを始めたのです。今でいうポスティングですね。閉店後、仕事から帰ってきた妻と一緒に各家の郵便受けにチラシを入れていきました。暑い日も、寒い日も、雨の日も、風の日も、妻と将来の夢を語りながら毎晩続けました。するとお客様が少しずつ増えていき、その上、お客様がお客様を連れて来ていただくようになりました。肌が敏感でどんな化粧品も使えなかったお客様が『これなら使えるわよ』と、同じ悩みを持つ方を連れて来て下さったのです。今で言うクチコミですね。その輪がどんどん広がっていきました。そのうちとても嬉しい手紙が届くようになりました。そこにはスキンケアができる喜びが(つづ)られていました。それを読みながら、肌トラブルで悩む方々のお役に立てているという実感を持つことができました。自分たちが目指してきたことが間違いではなかったと確信できたのです」

 社長の顔は喜びに溢れていた。