「でも、そんなに簡単にいいことは起こりませんでした。納得できる製品が出来上がったあとも、多くの難題が待ち構えていました。開発が終わってもすぐに発売できるわけではないのです。製造販売許可を取得する必要があるのです。しかし私にはその経験もノウハウもありませんでしたので、当初は化粧品開発受託会社のブランドとして製造販売許可を取得してもらって、その製品を仕入れて販売することにしたのです。こういう状態でしたから開発が終了してから発売にこぎつけるまでには更にかなりの期間を要しました。その間にもお金はどんどん出て行きます。私はお手上げの状態になりました。遂に資金が底をついたのです。これで終わりだと観念しました。妻とも相談して断念することに決めたのです」

 そこまで追い詰められたんだ……、
 わたしは社長の目をまともに見られなくなった。
 
「先ず母にそのことを打ち明けました。父と向き合うためには母の協力が必要だったからです。母は黙って私の話を聞いてくれましたが、話し終わると、何も言わず部屋を出て行きました。どうしたのだろうと思っていると、しばらくして何かを持って戻ってきました。なんと私名義の通帳とカードでした。印鑑までありました。それらをテーブルに置いて母の実家のことを話し始めました」