「ご自分で作られたのですか?」

「いえ、私は広告宣伝畑の人間なので化粧品の処方を組むことはできません。ですので化粧品開発受託会社に頼みました」

 今も付き合いを続けているというその会社のパンフレットを机の上で広げて社長が話を続けた。
 
「自分の肌が敏感でカサカサしていることを伝えて、低刺激性で、かつ、保湿力のある処方を頼みました。刺激が少なく、潤いのある成分を選んで処方を組んでもらったのです。そして、出来上がった製品を私と妻の肌で試していきました。何度も何度も。やっと自分たちの肌に合う化粧品に巡り合えたのは、試作番号88番の化粧水でした。その時の感動は絶対に忘れることはありません」

「88番というと」

「1年かかりました。長かったです、本当に。長いだけでなく、資金も底をついて……」

 それを聞いてお金の工面に走り回っていた当時の自分の姿が思い出された。
 そのせいか、「失礼ですが、その時の生活は?」と口走ってしまった。
 すると一瞬にして社長の顔が曇ったのでちょっと焦ったが、声が途切れることはなかった。