手持ちの金でなんとか1年間暮らすことができそうだとわかってホッとしたが、収入ゼロではその先やっていけない。
 1日も早く仕事を見つけなければならないのだ。
 しかし、大学3年生で小説家になったわたしは普通の仕事をしたことがなく、就職活動さえしたことがないので憂鬱になったが、それでも食べていくためには仕事をするしかないので、気を取り直してスマホで検索を始めた。
 
 ネットの求人サイトには色々な職業の情報が載っていた。
 思ったより多かったので安心したが、読み進めるうちに付帯条件があったり適性を求められている事に気がつき、仕事探しが簡単ではないことを思い知らされた。
 そこで資格や適性の観点からわたしの〈できない仕事〉を外していった。
 
 運転免許証を持っていないから、車を使う仕事はダメ。
 数字に弱いから、事務の仕事はダメ。
 筋肉がないから、力仕事はダメ。
 喧嘩に弱いから、警備の仕事はダメ。
 口下手だから、営業の仕事はダメ。
 笑うと顔が引きつるから、接客の仕事はダメ。

 消去法で一つ一つ消していくと、自分のできる仕事は何もないことに気づかされた。
 ため息が出た。
 自分は世の中から必要とされていないのではないかと虚しくなり、力が抜けてきた。
 胡坐(あぐら)をかくのもしんどくなったので横になると、天井の大きなシミが目に入った。
 そのシミがわたしを笑っているように感じた。
 
 シミ以下だ……、
 
 そう思うと底なしの穴に落ちていくような感じがして動けなくなり、瞼を開けているのもしんどくなった。
 目の前から光が消えるのに時間はかからなかった。