誘われるように中に入ると、無光(むこう)に包み込まれた。
 しかし、突然何かが光り、それが近づいてきた。
 そしてその後ろから更に光が近づき、その後ろにも、またその後ろにも、ずっと、ずっと、光が続いていた。
 
 怯えながらそれを見ていると、先頭の光が急に止まった。
 息を呑んだ。
 すると、いきなり声が発せられた。
 
「金返せ!」

 その途端、後ろに続く光が次々に声を発した。
 
「金返せ! 金返せ! 金返せ! 金返せ!」

 わたしは耳をふさいだ。
 そして逃げた。
 暗闇の中を全力で逃げた。
 しかし、どれだけ逃げても無数の光は追いかけてきた。
 
「金返せ! 金返せ! 金返せ! 金返せ! 金返せ! 金返せ! 金返せ! 金返せ!」

 いきなり壁らしきものにぶつかった。
 行き止まりのようで、もう逃げる場所はなかった。
 観念して振り返ると、無数の光に取り囲まれていた。
 そして、にじり寄ってきたと思ったら一斉に飛びかかってきた。
 
「ワ~!」

 大声で叫び続けるわたしの肩を二つの手が掴んだ。
 
「ワ~~!」

 恐怖が全身を貫いた。
 しかし、その手は更に強く肩を掴んで体を前後に揺さぶり始めた。
 
 もうダメだ、

 観念するしかなかった。
 されるがまま身を任せると、「どうしました?」という声が聞こえた。
 その瞬間、目の前が明るくなり、ぼんやりと人の顔が見えた。
 あの看護師だった。
 病室を巡回中に叫び声を聞いて駆けつけたのだという。
 それで状況が理解できて恐怖は消えたが、荒い呼吸のわたしは声を発することができなかった。
 
「大丈夫ですか? すぐに先生を呼びますね」

 彼女は慌てた様子で病室を飛び出した。