すぐに現場に(おもむ)いて職人さんたちと膝を突き合わせるようにして話を聞き、その熱い想いに圧倒されながらも必死にメモを取った。
 そして、どうしたら彼らの要望に応えられるか、夜遅くまで話し合った。
 それを繰り返す中で、自分の想いが更に確固としたものになっていった。
 伝統の技を廃れさせてはいけない、後世に引き継いでいかなければならない、その一翼(いちよく)を担わないといけない、と。
 
 すると、脳裏に美顔の社長から聞いた彼の母親の言葉が蘇ってきた。
 
「あなたには創業家の意志を受け継ぐ責任があるのです。古から綿々と引き継いだ意志を守らなければなりません。あなたは守り人になるのです」

 わたしはその言葉を胸に深く刻み込むと共に、この重要な役割を一代で終わらせてはならないと強く心に言い聞かせた。
 工匠と同じように守り人にも後継者が必要なのだ。
 個人事業主としての活動にとどめてはならないのだ。
 更に一歩前に進めなくてはならないという体の芯から湧き上がる熱い想いが大きな決断を促していた。
 
 やるしかない!

 敢えて声に出した。
 その瞬間、心が決まった。
 未来に向けて時が動き始めた。