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 ある日、新たな修復現場で取材をしている時、見知らぬ若い女性が妹を訪ねてきた。
 ホームページに載せている電話番号にかけて、この場所を聞いてきたのだという。
 
「宮大工になりたくて、ここに来ました」

 ホームページを見てとても興味を持ったという彼女は、真剣な表情でその経緯を妹に語り始めた。

 彼女は中堅医薬品卸に勤めるOLだった。
 仕事は営業事務で、商品や注文に関する問い合わせ対応や納期確認、見積書の作成、伝票入力などだった。
 生命や健康に係わる業種なのでやりがいがあり、社会に貢献しているという自負があったが、日々の仕事は単調なものばかりだった。
 だから次第にマンネリ化し、入社時の熱い想いは消えていった。
 しかし、それではいけないとMS(エムエス)(マーケティング・スペシャリスト)と呼ばれる営業職への異動を考えたが、それが自分の一生の仕事だとは思えなかった。
 バックボーンもスキルもなかったからだ。
 
 その後、本当に求めている仕事を探すために当てもなくネット検索を続けたが、やがて自分が求めているのは組織の中で働くことではないと気がついた。
 ではなんだろうと思って手に職を付けた女性たちを探し始めると、資格取得が早道かもしれないという考えが浮かんだが、調べていくうちに興味が無くなった。
 自分のやりたいことが見つからなかったのだ。
 いや、本当にやりたいことがなんなのかわかっていなかったというのが正しかった。
 だから当然のようにネット検索も止めてしまった。