わたしは固まってしまった。
 身動きできず目で追うこともできなかった。
 しかし、わたしの横を通り過ぎようとした時、大きな手がわたしの肩を掴んで二度三度強く揉んだ。
 そして、ポンポンと軽く二度叩いて部屋を出ていった。
 
 わたしは気が抜けたようになりながらも、オヤジの大きな手で揉まれ叩かれた右肩に左手を置いた。
 そこにはまだ温もりが残っていた。
 その名残(なごり)に浸っていると、妻が手を重ねてきた。
 その上にオフクロが、そして妹が手を重ねた。
 すると、更にその上から多くの手が重なってきたように感じた。
 それは宮大工の手のように思えた。
 古から続く宮大工たちの手に違いないと思った。
 わたしはその重みをしっかりと受け止めて、胸の奥で彼らに告げた。
「皆さんの技を、想いを、千年の魂を、後世に伝え続けるために一身を捧げます」
          
 翌日、ホームページを開設した。
『女宮大工・才高宮の千年日記』
 才高家が代々修理をし、再建してきた数々の国宝や重要文化財を詳しく紹介すると共に、宮大工としての日々の活動を日めくりのように紹介していった。
 それだけでなく、色々な紹介ページの最後に必ず妹のメッセージを入れ込み、文字で音声で繰り返しそれを発した。
「宮大工の仕事に興味のある方、男女を問いません、是非ご連絡ください」