オヤジの背中を追っていると、匠が急に目を覚ました。
 すると、抱っこ、というように妻に手を伸ばした。
 抱きかかえられると、今度はわたしに手を伸ばした。
 そして、「バアバ」と言ってオフクロに笑みを向けた。
 また満面笑みになったオフクロは匠をわたしから奪うようにして抱きかかえ、「決まりね」と匠にウインクを投げた。
 それから立ち上がって妻の方を向くと、「今夜はお祝いをしましょ。恵さん手伝ってちょうだい」と言い残して台所に向かった。
 その後姿に向かって「はい」と返事をした妻は立ち上がったが、わたしの耳元に顔を寄せて、「さすがお義母さんね。肝が据わっているわ」と囁いた。
 わたしは呆気にとられて何も返事ができず、台所に消えた二人の残像を見続けるしかなかった。