「ちょっと聞いてもらいたいことがあるんだけど」と切り出して、独立と工匠支援事業について打ち明けた。

 オヤジは腕組みをしたまま何も言わず聞いていた。
 対してオフクロは何度も頷きながら妻とわたしの顔を交互に見つめながら耳を傾けていたが、話し終わるや否や「うちにいらっしゃい」と直球を投げ込んできた。
 そして、「家賃がもったいないでしょ」と妻に同意を求めた。
 話が急すぎて受け止めることができずにいたが、「食費も電気代もガス代も水道代も新聞代も一緒に住めばぐっと安くなるのよ」と声が続いた。
 
 どう返事したものかすぐに反応できなかった。
 オフクロの言っていることは確かにその通りなのだが、親との同居という選択肢はまったく考えていなかったし、そんなことを夫婦で話し合ったこともなかった。
 そもそも(しゅうとめ)と一つ屋根の下で暮らすというのは妻にとってハードルが高すぎるのだ。
 
 恐る恐る妻の顔を覗き見ると、真剣な眼差しをオフクロに向けていた。
するとオフクロが更なる剛速球を投げてきた。