「聖徳太子様、わたくしは才高叶夢と申します。22代続く宮大工、才高家の長男でございます。わけあって家を継ぎませんでしたが、跡を継ぐべく修行をしている妹の想いを成就させるために新たな道に進むことを決意いたしました。それは、匠の技を次の世代に伝えるための仕事です。日本には数多くの歴史的建造物があります。それらは多くの人の努力によって維持保存されてきました。しかし今、それが危機に瀕しております。古の建物を維持保存するためには当時の建物のことがわかる大工がいなければなりませんが、その数がどんどん減ってきているのです。もしこのまま減り続けていけば、修理が必要になってもできない事態に陥りかねません。そうなれば、国宝や重要文化財の保全は極めて難しくなってしまいます。そんな事態になったら大変なことになります。日本の財産、いや、文化が崩壊することになりかねません。そうならないようにするためには、棟梁や経験豊富な宮大工たちが健在なうちにその心と技を次の世代に伝えなければならないのです。わたくしはその役割を担いたいと強く思っております。匠の技を次の世代に伝える手助けをしたいのです。それは妹の想いや才高家の想いだけでなく、古から綿々と受け継がれてきた宮大工の想いを成就することにもつながると強く信じております。聖徳太子様、わたくしは今までなんの結果も残していない未熟者です。しかし、宮大工の技を後世に伝えたいという想いは誰にも負けません。やり遂げる覚悟は揺るぐことはありません。どんなに厳しい状況に陥っても弱音は絶対に吐きません。ですから、何卒お力をお貸し賜りますよう、心から、心の奥底からお願いを申し上げます」

 そして1万円札を両手に持ったまま深々と頭を下げて啓示を待った。
 待ち続けた。
 しかし、何も起こらなかった。
 聖徳太子は何も答えてくれなかった。
 それでも待った。
 17時の退出時間まで待つ覚悟ができていた。