数々の功績を残して49歳で亡くなった厩戸皇子は(のち)の人々から『聖徳太子』と呼ばれるようになったが、その聡明ぶりから数々の伝説が生まれた。
 特に有名なのは10人以上が一斉に発した言葉を一言も漏らさず聞くことができたというものがある。
 それも聞くだけではなく完全に理解してすべてに的確な返答えをしたという。
 天才を超える超人とも称されるような賛辞である。
 そんな敬愛の念が影響したのか、聖徳太子は日本のお札に最も多く登場した人物となっている。
 戦前に2回、戦後に5回も登場しているのだ。
 最近では、1958年(昭和33年)から1986年(昭和61年)まで約30年間に渡って1万円札の顔を務めていた。
 わたしはそのお札を白い封筒から取り出した。
 オフクロが大事に持っていたのを借りてきたのだ。
 お札を聖霊院の正面に向けて深々とお辞儀をした。