「良かったわね」

 オフクロの声だった。

「あの人ね、あなたから貰った会社案内のパンフレットをよく読んでいたのよ」

 知らなかった。
 持って行った時にはふ~んというような顔をしていたから関心がないのだと思っていた。
 
「それでね、『よくできてる』ってポツリと言ったの。あなたがきっちり仕事をしているのがわかって嬉しかったんだと思うわ」

 それを聞いてなんかグッときた。
 鼻の奥がツーンとなった。
 
「家族みんなで仕事ができるといいわね」

 それだけ言い残して部屋を出て行った。
 その後姿を見送ってポスターに目が行くと、何の前触れもなくある人の面影が浮かんできた。
 
 会いに行こう、
 
 突然そんな思いが体の奥から湧き起ってきた。
 わたしは奈良の方角に向き直り、両手を合わせて、想いを込めて、深々と頭を下げた。