「ねえ、たまには外で食べない?」

 近くに美味しい中華料理店が開店したのだという。

「この前お義母さんがランチに行ったらしくて、とてもおいしいから行きなさいって勧められたの」

 特に異論はなかったので、妻の案内でその店に向かった。

 10分ほど歩くと、『祝御開店』の大きな赤い文字が主張する華やかな花輪が見えてきた。
 近くに行くと店の前に並んでいる人はいなかったが、土曜日の夕方ということもあって、店内は混雑しているようだった。
 
「空いてるかな?」

 妻と目を合わせてから店の中に入ると、「いらっしゃい」という威勢のいい男性の声が耳に届き、中年の女性が近づいてきた。

「お二人様ですか?」

 頷くと、女性が店内を見渡した。

「こちらにどうぞ」

 奥のテーブルが一つだけ空いていた。

「補助椅子をお持ちしますね」

 匠の席を用意してくれたあとメニューを広げて、「お決まりになりましたらお声掛けください」と言って店の奥に戻っていった。

 厨房では男性が二人忙しそうにしていた。
 父親と息子だろうか? 
 一方は50代くらいで、もう一方は20代のように見えた。
 店内を切り盛りしている女性は母親のようだった。