子亀は親亀の背中を見て育つのだろうか? 
 
 そんな問いが浮かんだが、卵から孵化(ふか)したばかりのウミガメの姿が思い浮かんだ時、亀は子育てをしないことに思い至った。
 子亀は生まれた瞬間から一人で生きて行かなければならないのだ。
 泳ぎ方や潜水の仕方、息の継ぎ方や餌の取り方を一人で学ばなければいけないのだ。
 そもそも親の存在さえ知らないのだ。
 
 亀は大変だな~、

 自分は人間で良かったと思った。
 その時、匠の声が聞こえた。
 ムニャムニャと寝言のようなことを言っていた。
 どんな夢を見ているのだろうか? 
 わたしの背中を追いかけている夢だろうか? 
 もしそうだとしたら、匠にはどんな背中に見えているのだろうか? 
 頼もしい背中だろうか? 
 頼りない背中だろうか? 
 目指したい背中だろうか? 
 それとも、見たくもない背中だろうか? 
 そんなことを考えていたら、いつの間にか眠っていた。