その夜、匠を寝かせるために添い寝をした。
 いつもは妻がするのだが、今夜は自分がすべきだと思った。
 泣かれたら代わってもらわなければいけなかったが、意外にもおとなしく寝てくれた。
 
 親の背を見て子は育つ、か……、
 
 呟いた瞬間、オヤジの顔が頭に浮かんできた。
 厳しい言葉でわたしを指導している顔だった。
 不器用なわたしを叱咤している顔だった。
 それが嫌だった。
 だから反発した。
 やりたくもないのに親が敷いたレールの上を走るのなんてやってられないといつも思っていた。
 
 あんなふうにはしたくない。
 
 オヤジのようなやり方で匠に接するのは論外だった。

 では、どうすればいい?
 
 すると〈優しくする〉という言葉がすぐに浮かんだが、そんな単純な答えでいいはずはなかった。
 祖父の立場ならそれでいいかもしれないが、親となるとそうはいかない。
 厳しいことも言わなくてはいけないのだ。
 間違った道に足を踏み入れないようにしてやらなければならないのだ。
 可愛い可愛いと甘やかしてはいけないのだ。
 しかしそうなるとオヤジと同じになる。
 一度も褒められたことのない惨めなあの頃が蘇ってきた。
 
 う~ん、

 寝返りを打ってカーテンの方を向くと、豆電球の明かりに照らされた(ひだ)が陰影を作って物悲し気にため息をついているように見えた。

 そうなんだよな~、

 意味もない言葉が口を衝いた。
 すると突然背中が温かくなった。
 匠が寝返りを打ってわたしの背中にピッタリと付いているようだった。
 何故か親亀の背中に子亀が乗っている姿が思い浮かんだ。