重要文化財の修復が完了した夜、妹はオヤジの部屋に呼ばれた。
 なんだろうと思って中に入ると、才高家に伝わる三つの物を渡された。
 指矩(さしがね)墨壺(すみつぼ)手斧(ちょうな)
 指矩は直角に曲がったものさし。
 墨壺は木材に線や印をつけるためのもの。
 手斧は木材の表面を平らに削る道具。
 宮大工の三種の神器(じんぎ)と言われている大切なものだった。
 
 受け取った妹は手が震えて、それらを持っているのが精一杯だった。
 それに、何か言おうとしても声帯は固まったまま動こうとしなかった。
 どうしていいかわからず戸惑うばかりだった。
 それでもなんとか頷きを返すと、オヤジも軽く頷いてほんの少し頬を緩めた。
 そしてもう一度頷いてから立ち上がって、ゆっくりと背を向け、部屋を出て行った。