それからと言うもの、よく晶くんから声をかけられるようになった。

 毎朝、教室ですれ違うと「おはよ」と挨拶される。

 最初はドギマギしたけど、私もちゃんと返事ができるようになった。

 私はずっと、落ち着かないのです。

 なぜか心がソワソワして落ち着かないのです。

 晶くんの黒い微笑みが脳裏に焼き付いて離れなかったのです。

「もしかして私……。いやいやいや!」

 そう言って頭を振ると、愛美ちゃんが不思議そうにする。

「悩み事ー?」

「……うん。……まぁ、悩み事」

「私には秘密?」

「ま、まだ秘密!」

「もしかして、晶くんのこととか?」

「うぐっ……!」

 心臓にグサリと刺さる言葉……。

 そうです、晶くんのことです……。

「図星でしょ〜」

「い、いやぁ。違うよ、あはは……」

 私は引き攣った笑いをぶら下げて誤魔化した。

 きっと感のいい愛美ちゃんにはバレていそうだけど、今はまだ黙っておきたい。

 すると、教室から担任の菅野先生が入ってきた。

「ちょっと早いけど席つけー」

 その声を聞いて、愛美ちゃんはこう言う。

「なんだろ。私戻るね、じゃ!」

「うん、また」

 そうして愛美ちゃんは席に戻っていった。

 クラスのみんなも自分の席に着くと、先生はこう言う。

「席替えするぞー」

『やったー‼︎』

 クラス中がガヤガヤと騒がしくなる。

 席替えかぁ。もう夏になったしそんな時期か。

 愛美ちゃんと近くになれないかな。

 そうして席替えが始まった。

 席替えは簡単。くじを引いて当たった席が自分の席になる!

 先生は黒板に座席と番号を書いていく。教卓にはくじ引きの箱が置いてあった。

「それじゃあ、この列から順番に引いていけー」

 くじ引きが始まった!

 どんどんくじが引かれていって、私の番になった。

 後ろの席がいいなぁ、なんて思いながらくじを引くと――

「32番!」

「森下はこの席だな」

 先生が指さす座席表を見ると、隣に書かれていた名前は神崎晶の文字だった。

 あ、晶くんと隣の席……。

 チラリと晶くんの方を見ると、バチっと目が合った。

 ドキッとして私はすぐに目線を逸らす。

 そのままくじ引きは進んでいき、席が決まった。

 場所は窓際奥の角席。

 嬉しいことに、前の席が愛美ちゃんになった!

 そして愛美ちゃんの隣は周人くん! よかったね、愛美ちゃん!

 なんと言っても、私の隣は晶くん……。

「それじゃあ、机移動しろー」

 先生の声を合図に、机の一斉移動が始まる。

 移動が終わると、愛美ちゃんが後ろを向いて小さい声でこう言う。

「やったね果穂……! 近くになれた!」

「愛美ちゃんもよかったね! 隣……」

「しー!」

 人差し指を口元に当てて、静かにしてとポーズした。

 自分の隣を見ると、晶くんがいる。

 少し前までは全然なんとも思わなかったのに、あれ以来なぜかドキドキしてしまう……。

「森下さん」
「は、はいっ!」

 晶くんに声をかけられ、背筋をピンと伸ばして返事をした。

「よろしく」
「よ、よろしくね」

 こんなにも晶くんとの出来事が連続すると、嫌でもドキドキしちゃうよ!

 晶くんがどう思っているかは分からないけど……。

 そうして、そのまま授業が始まった。

 なんだか落ち着かなくて集中ができない……。

 チラリと晶くんを見ると、晶くんは退屈そうに窓の外を眺めていた。

 やっぱり、綺麗な顔……。

 そう思って見惚れていると、晶くんの視線が私に向いた。

「…………‼︎」

 そうして晶くんは、口角を上げて微笑んだ。

 なんだかその微笑みは、私にとって毒のような気がした。

 バクバク動く心臓。こんな日々が続くのなら、心臓が持たない……!