「……なにしてんの」

低い声だった。知らない人だった。私の記憶の中には存在しない人。

「……え、」

何してんの?何してんの、とは。

そんな簡単な疑問を持つのは、その人が、わたしの思考回路など吸い込んでしまうほど美しい人だったからだ。

若松耀太や、吉塚悠衣に引けを取らないほど綺麗な人。高い鼻梁と薄いくちびる、切れ長の瞳、黒く艶やかな髪。少し伸びたくせっ毛を耳にかけているから、ピアスが点在した耳たぶや、シャープな顎のライン、スラリと伸びた首筋がよく映えて綺麗。ていうか、色気がやばい。振り切ってる。

芸能人か?と見紛うビジュアルに、ぽかんとくちをあけて呆けてしまう。

「これ、俺のツレ」

「はぐれたって、男かよ」

「そういうこと。ごめんねえ〜」

勝手に話を付けてしまったらしいその人に腕を引かれて、人にぶつかりながらも、人並みを歩く。

「え!?ちょっと!腕痛いんですけど!?」

「いいからこっち来な」

「……!?誰あんた!ちょっと!」

「17歳はクラブ入店禁止な〜。どうやって入った」

「は!?21歳ですけど!?」

「あっそ、身分証は。免許証、保険証、大学生なら学生証、ほら出せ」

「身分証……」

挙げられたものであれば、学生証しか持ち合わせていない。詰んだ。