くろさき、と。海老センのくちびるが私を紡ぐから、私の耳はすぐに反応する。うさぎの耳みたいにピンと立っているにちがいない。どくどくと鼓動が脈打つ。うさぎが心臓の中で跳ねているみたいだ。


「俺な。浮気する女、まじで無理」


唐突に聞かされた女の趣味。一体何故?と、疑問に駆られるよりも、浮気する女が嫌い、という情報が私の脳裏に刻まれた。でも、平然を装う。

「そうなの?一途な人が好きなんだね」

そっかそっか、と軽く頷きながら、浮気しない浮気しない……を繰り返した。浮気のループが何度目かの時だった。



「卒業するまでの間、黒崎が誰とも付き合わず、誰にも移り気しなければ、その気になるかもな」

「……え?」

ストン、と鼓膜に馴染んだ声に、顔を上げた。上げざるを得なかった。タバコ片手の海老センは当たり前に、余裕な笑みを浮かべていた。

妄想?それとも、私の耳が都合の良いように聞き間違えた?


「……ほんとう?」

「本当」

「ほんとに!?」

「だから途中でめんどくなる前にさっさと別の、」


言葉を続けようとする海老センの身体に容赦なく抱きついた。「あぶねえな」と、タバコの煙が逃げていく。