引いちゃダメだ。

負けたら、終わり。海老センのこと、なんにも知らないけれど、何となくわかる。

「……先生は、教師だから、私が学校の生徒だからこの対応をした。当然のことだって思ってるのね」

「まあ、そういうことだな」

「それでも、当たり前のことを当たり前にできない人も居るでしょ?」


ちくんと針で刺されたように心が痛んだ。

言わない方が良い。分かっていても、伝えなければ終わってしまう。おそらく、この瞬間に。


「嬉しかったの!先生は仕事の範疇かもしれないけれど、私はすごく嬉しかったの」


──……十分だ。

そもそも、誰かを好きになる時、誰かに断りを入れるだろうか。

アイドルを好きになることを咎められた人は居るか。居ないでしょう?

人を好きになることに。
普通と特別の隙間に、理由なんていらない。

人の幸福なんて、その人になってみないと分からない。

例えば同じプリンを食べるとする。甘いものが好きな人と嫌いな人が食べるのでは、当然、幸福度が違う。

私にとってはこの部屋がプリン。甘い時間を食べたい。この時間に、誰かと一緒にいて、その誰かが私を私として認めてくれれば尚更幸せだ。


……まあ、ものすごく嫌がられていますけれど。