「つぅか、なんで敢えて面倒な俺だよ。気兼ねなく、自由な同世代を好きになれや」

先生の不満は、自身に向けられた矢印かもしれない。

舐めているのか。女の" 一目惚れ "の脅威を、知らないのか。

──いや、ちがう。

この人は自分の容姿を理解しているはずだ。でなければ、完璧とも言える顔を隠したりしない。わざわざダサくしない。

お腹を空かせた肉食魚がウヨウヨと泳ぐ水槽の中に、さあどうぞ食べてみろと、自らの美味しさをひけらかし、飛び込んだりしない。


ここで私が" 顔が好き! "、" 声が好き! "と、本能のままに言えば引かれてしまう。規制線を張られてしまう。

「(それは絶対、イヤ……!)」

震える手を鼓舞するように、握りしめた。

「……海老センが初めてかもしんない」

「なにが」

「本気で私の事、心配してくれたの。海老センが、先生が初めて」

顔を上げる。海老センと目が合う。覇気がなく、虚ろな瞳が私を敵とも見なさず、ただ、見つめて。嘲笑うように口角が跳ね上がる。


「教師として最低限の務めを、やたらと美化してんじゃねえよ」


こっちへ来るなと、押し返す。