考えてみれば早い。

「用事、終わったならさっさと教室もどれ」

結局、興味を持っているのは私だけ。海老センは、数多いる生徒と同等の扱いをしているだけだ。

ぴよぴよとさえずるヒヨコ。いくら私がアピールしても、それは鳴き声も、顔立ちも、他のヒヨコとほとんど差異は無い。

「(やっぱり、ムカつく……)」

「海老センが構ってくれないなら、またクラブ行っちゃおうかな」

この抵抗は、私の単なる反抗心なのか。

先生ならば知っているだろう条例を隠語に含ませてみると、「……俺に言うなよ」と、海老センはパソコンを閉じるとようやく私を見据えた。

「えへ。先生、聞いちゃったね?」

「めんどくせ〜……」

どうやら、理解してくれたらしい。満足して「じゃあ、またね」とスカートを翻すと「黒崎」と平坦な声で呼ばれるから、直ぐに振り向いた。


「どこにも行く場所無いときだけ来れば。俺が居るとは限らないけどな」

「良いの!?」

「そのかわり、古典準備室には来るな」


学校内で、特定の生徒と親しくしているのを見られると、まずいのかな?

いや、どちらかと言えば、仕事の邪魔なのだろう。

後者に納得をして、はーい、と頷いて部屋を後にした。

負けっぱなしだったのに、教室に戻る間、気分は晴れやかだった。