メラメラと対抗心を持て余す私に対し、海老センは冷ややかで、じっとりとした目を向ける。いたたまれない。
「(知らない女が、勝手に鍵もってたら、やだよね)」
彼の事情も知らずに、独りよがりの考えだけで動いている私は、あまりに子どもだ。
「ごめんなさい」
そっと鍵を差し出して、申し訳半分頭を下げる。すると、ポンポンと頭を軽く叩かれるので、ちらりと目線を上げる。
「どーも。美少女のおかげで、鍵変えずに済んだわ」
海老センは怒ることもなく、余裕の表情。しかも、自分の発言に首を絞められるとは。
やはり、腹立たしい。
「……ねえ海老セン、彼女いるの?」
自分のデスクに向かい、パソコンを開く海老センの背中に問いかける。
「居るような部屋に見えましたか」
「全然。洗面所みたけど、女性物の化粧水系ひとつも無かったし、歯ブラシも一本だった」
「そういや、何故か歯ブラシ増えてたな〜」
「え?そうなの?」
とぼけているけれど、もちろん、犯人は私である。
「捨てたけど」
しかし海老センは淡々としているではないか。
「捨てたの!?また買わなきゃじゃん!?」
「なんで俺ん家に来る前提なのかな?」
「私の家の事情知ってるでしょ?じゃあ、たまに逃げ場になってよ」
「やだ」
何を言っても、釣れない先生である。