知らない匂いがするベッドの上。目が覚めるとしっかりと朝だった。知らない(知ってるけど)人の部屋で私は爆睡したらしい。私の心臓は毛量が豊かだ。

ていうか、もう一つ。

「嘘、かえってきてない!」

海老センが居ない、その事実を知る。

信じらんない。朝帰り教師!教育委員会に言いつけて……も、どうにもならない。

大人の男だから、朝帰りくらいするだろう。

またしても私の負けだ。完敗だ。

むうっと頬をふくらせて、ごわついた髪の毛を手で梳いた。洗っていない髪特有のベタつく感覚が気持ち悪かった。

「帰ろー……」

ふと。ベッドの横に、見覚えのある黒いバッグが置かれていた。私のバッグだ。

「(あれ?……帰ってきたんだ)」

帰宅して、まだ私がいるから、また出かけた?それとも、ハシゴするついでに家に寄って、荷物だけ置いた?

いずれにせよ今ここに海老センは居ないので、互いに朝帰りという事実だけが出来上がる。


「(……誰と一緒なんだろ)」


学校の海老センであれば、水槽の海老にちまちまと餌をあげる図が想像に容易いけれど、夜の海老センは綺麗なお姉さんとホテルに居る図が超似合う。ムカつく。

私の海老センへの語彙は、ムカつくで固定されつつある。


『鍵はポストな』


家を出る前に、言われたことを思い出した。思い出した上で、私は、他人の家の鍵をポケットに入れた。


ムカつくオトナへの単純な反抗。高校生なりの、悪あがきだ。