海老センはライターをカチカチと鳴らした。他人がいてもお構い無し。

……いや、ちがう。

私にとって大問題なのに、この人にとって私が居ることなんて大したことないんだ。問題にもならない。

「(……ムカつく……)」

困っているのは私だけ。海老センは困るどころか、学校の敷地外でいつもそうしているように煙草を咥えた。

その無表情を崩したい。

「え〜……いっちゃうの?」

スカートの裾を掴んでいた手を離して、海老センの腰に両手を回した。首をこてんと傾げ、あざと〜く見上げて、瞬きを増やす。


「もも、さびしいな」


言えば、ほぼほぼ男は家に泊まらせてくれる、黒崎心桃渾身の上目遣いでお強請りすると、突然、視界が白で霞む。

「10年はえーよ」

それが海老センの吐き出した煙だと理解するのは早かった。


「残念ながら、その手の誘いには慣れてんだよ」


そして、海老センが大人の余裕を垣間見せるような勝利の笑みを浮かべているので、全く歯が立たないことも理解した。だから、唇をツンと尖らせ「分かりましたよ〜!お邪魔しますだよー!」と、素直に家に転がり込む。