海老センに連れられたのは、とりわけ綺麗でもなく、古くもない、至って普通のアパートだった。
「どこ?」と訊ねると「俺ん家」とまるで当然のように鍵を開けた。
「(私、海老センに持ち帰られた……!?)」
いいの?それって。クラブ入店より駄目じゃない?顔が良ければ許されるの?
禁忌と興味が天秤にかけられる。海老センはドアに凭れて無言で"早く "の圧を掛けている。
入っていいの?……いいの?
「て、ていうか、冷静に考えて教師が生徒を持ち帰っちゃ駄目でしょ!?」
結果的に真面目が邪魔をして、守りに出た。
私は、悪い子の仮面を被れても、正真正銘の悪い子には、なれない。
しかし海老センは嫌そうに顔を歪め「あ゛??」と濁った声を出す。
「一時的に部屋貸すだけだよ。だれが一緒に居るって言った」
「ええ!?置いてくの!?」
「当たり前じゃん。俺は戻る」
「信じらんない!」
「あの場で黙って見過ごす方がどうかしてるわな」
確かに、その通りだ。
海老センは家に帰りたくない私の願いを叶えようとしてくれているだけだ。