前から4番目。隣も目の前も当然に誰もいない。この授業は比較的ゆるいおじいちゃん先生の講義だ。


去年もばっちばちのマスカラ女が泣きついて救ってもらっていたことを目撃した。



学生の本分を全うしない奴、地獄に落ちて留年しろよと思うけれどちょっと前まで同じように男ウケに生きてたあたしが言う権利はなかった。思うに留めておく。



本日も心の中で悪態をついて、ほとんど使わないくせに値段だけはご立派な本の分厚さと中身の価値が比例しない参考書を広げて、しっかり将来に活かしていきましょうか、と。



──その時に。



あたしの隣という、誰の予約もなく誰の予約も受け付けていないその場所に、ふわり、甘いバニラの香りが漂った。





──────「隣、いい?」