「おはよう、和音ちゃん」


「あ、依乃(えの)!おはよ」




 席に近づいて声をかけると、和音ちゃんは、にこっと笑ってくれる。

 運がいいことに、今の私の席は、和音ちゃんのななめうしろ。

 だから、そのまま自分の席にリュックを下ろした。




「ねぇねぇ依乃、ナキタマさまのおまじないって知ってる?」


「ナキタマさまのおまじない…?」




 私の席に身を乗り出してきた和音ちゃんを見て、きょとんとすると、和音ちゃんは、ぴんと人差し指を立てる。




「となりのクラスで流行ってるうわさなんだけどね。ナキタマさまのおまじないをすると、運命の人と結ばれるんだって!」


「えっ。う、運命の人と…?」




 私は、ちらっと、廊下側の席にいる中村くんを見てしまった。

 中村くんは耳にイヤホンをさして、いつも通り、どこか陰のある瞳をスマートフォンに向けている。