学校に来て、好きな人に会ったとき、なんて声をかければいいのか、私はいつも悩む。

 話しかけたい。

 話しかけたいのだけど、特に仲がいいわけでもないし、急に声をかけたら変に思われるかもしれない。


 そう思うと、中村(なかむら)くんの姿を見て開いた口は、数秒も経たずに閉じてしまう。




「あ…佐々木(ささき)さん、おはよう」


「お、おはようっ、中村くんっ」



 そんなときに目が合って、迷いなくあいさつをしてくれる中村くんに、私はいつもときめいていた。

 今日も彼からあいさつしてもらえて、ほんのりほおが熱を持つ。

 次にかける言葉を考えている間に、中村くんは教室へ向かってしまうのだけど。


 私は小さくため息をつきながら、下駄箱に手を伸ばして、上履きを取った。


 くつを履き替えて、1人で教室に向かうと、窓際の席に和音(おと)ちゃんの姿を見つける。

 1年生のときから同じクラスで、一番仲のいい友だち。

 和音ちゃんには付き合っている人がいるから、登下校は別々なんだけど。