医局まで辿り着くと、わたしはコンコン、と医局の扉をノックした。
扉が開き、出てきたのは黒木さんと同じ心療内科医の外舘先生だった。

外舘先生は、黒木さんと同じ年で院内では黒木さんと一番親しい丸いメガネをかけたユーモアのある先生だ。

「おっ、くる実ちゃん。お疲れ!」
外舘先生はわたしの姿にそう言うと、医局内に向かって「黒木せんせー。愛妻弁当が届きましたよー。」と言った。

すると、黒木さんが奥の方からこちらへ歩いて来るのが見えた。

黒木さんが扉のところまで来ると、わたしは「お待たせしました。」とお弁当が入っているバッグを差し出した。
黒木さんは「くる実さん、わざわざ届けて頂いてありがとうございます。」と優しく微笑んだ。

そんなわたしたちの姿に「あー、羨ましいなぁ〜。俺も愛妻弁当食いてぇ〜」と、わたしたちを茶化すように外舘先生は悪戯な笑みを浮かべながら、自分のデスクへと戻って行った。

「黒木さん、話したいことがあるんですけど、少しだけ良いですか?」
わたしがそう言うと、黒木さんは不思議そうな表情を浮かべ、「じゃあ、そっちの奥の方へ行きましょうか。」と言い、わたしたちは自販機が並ぶ奥まった場所へと移動した。