「美穂、今日は校舎裏とかも逃げの範囲だから、井戸の裏とかどう?」

「えっ、あの古井戸?!」

「美穂小柄だし、あそこならすぐには捕まらないって~」

「でも……」

この学校の校舎裏の端にはお札の張られた古い井戸があるのだ。

何でも大昔、人間の命が大好物だった鬼を陰陽師がこの井戸に閉じ込めたらしい。

「あの井戸には近づいたらいけないって……鬼から声かけられるって」

不安げな表情の美穂に凛花は大きな口をあけて笑う。

「あはは、もう美穂ってあんなウワサ信じてるの?」

「凜花ちゃんは信じてないの?」

「勿論、ただのウワサ話でしょ?」

「でもなんか怖いよ、もし鬼が出てきて話しかけられたら……」

「もしそのウワサが本当だったら、鬼から何か話しかけられても絶対返事しなけりゃ大丈夫って話でしょ。じゃあ、私はいつも通り雲梯(うんてい)の前の花壇に隠れるから、頑張ってね」

「あ……」

美穂との話を切り上げて凛花が駆けていくと、遠くから諒の数を数える声が聞こえてくる。

(急がなきゃ)

美穂は全速力で校舎に向かって駆けると、校舎の裏の端にひっそりとある古井戸の前におそるおそる立った。

「……気味悪いな……」

その井戸はかなり古く、木の蓋の上には破れかけたお札が雑にビニールテープで張られている。さらに先日の台風の影響だろうか?僅かに木の蓋が開いている。

「でもここなら確かにすぐには見つからない……」

美穂は覚悟を決めると井戸の裏に回ってしゃがみ込んだ。
風の音と木の葉の揺れる音だけが静かに聞こえてくる中、暫くすると誰かの足音が聞こえてくる。

「あれ? 美穂絶対この辺だと思ったんだけどな~」

(あ、諒だ……)