美香は私の袖をきゅっとにぎったまま、黙っている。

私も兄貴も何も言えないでいた。


「恭ちゃん、泣いたりしてごめん。ゆかもありがと。」


袖をにぎっていた力が少し弱くなったので、

「大丈夫だよ。」

そういって、私は美香の頭をなでた。


「うん。」とだけ言って、美香は私に真っ赤な目と鼻で微笑んだ。


「恭ちゃん、美香のこと、まだ好き?」

突然の美香の言葉に兄貴の目はまん丸で、

「ま、まだって!・・・あたりまえだろっ!俺はずっと美香が好きだよ。まだなんていうなよ!」

と、驚きでろれつの回らない口で答えた。


「ホントに?絶対?何があっても?」

と心配そうに兄貴を覗き込む美香に、うん。と力いっぱい頷く兄貴。


「なんかあったの?」と思わず聞いてしまった。


「ううん。・・・ただ・・・」

「・・・ただ?」


「恭ちゃんが、美香のこと嫌いになっちゃったら・・・って思ったら怖くなっちゃって。」

まだ赤い目で、困ったように微笑む。


「美香、恭ちゃんは美香が大好きなんだよ。知ってるでしょう?だから、不安になんかならないで。」

「恭ちゃん、ごめんね。美香、あまのじゃくだから恭ちゃんの喜ぶことしてあげられてないし、わがままだし、気も強いし・・・優しくないから。」

「・・・だから、恭ちゃんが美香のこと嫌いになると思った?」

兄貴のその言葉を聞いて、美香は私の手に自分の手を乗せてきた。

私は反対の手を美香の手に重ねてあげる。美香の手は少し震えていた。

「そうなの?」

返事ができない美香に兄貴はもう一度聞く。

私は、手に少し力を入れて美香の顔を覗き込んだ。


美香は俯いたまま、小さくこくっと頷いた。